「鬼滅の刃」メガヒットの秘密を独自解説

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10月16日から、劇場版『鬼滅の刃』が公開され、空前の大ヒットを記録しています。TVアニメも好評を博し、原作漫画は、今月ついに累計発行1億部を突破。これは『ONE PIECE』の記録を抜く史上最速でのことだそうです。なぜ、ここまでのヒットとなったのでしょうか?

『ONE PIECE』の記録も塗り替えるお化けヒット

少年ジャンプで連載されていた『鬼滅の刃』が、10月発売の第22巻、12月発売の第23巻で電子書籍版を含む累計発行部数がついに1億の大台に乗ったそうです。
1億部ともなると、もはやモンスター漫画といってよく、この数字を 達成したジャンプ作品は他に『DRAGON BALL』『SLAM DUNK』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』など錚々たる作品があげられます。

調べてみると、新刊が出るたびにコンビニで平積みになる『ONE PIECE』は、第36巻発売時に史上最速で1億部突破を達成。押しも押されもせぬ不動の国民的マンガである同作品ですが、『鬼滅の刃』が、 この最速1億部突破の記録を大幅に塗り替えることとなりました。

何しろこの1年で約9000万部も数字を伸ばしたほどで、この勢いのすごさについては確実にマンガの歴史に刻まれるミラクルヒットだと思います。
それだけ時流に乗ってきた『鬼滅の刃』であるから、一時は社会現象になって、その面白さについて至る所で取り上げられています。
同作品に関する解説はそれで一巡した印象もありますが、1億部突破のこの機に、改めて『鬼滅の刃』の面白さについて触れてみたいと思います。

打ち切りの噂もあった独特な絵柄

週刊少年ジャンプには、げに恐ろしい“打ち切りシステム”というものがあるらしく、内情に詳しいわけではないですが、読者アンケートなどの人気が振るわないと連載が強制的に打ち切られるという慣習が存在するといわれています。週刊少年ジャンプだけではないでしょうが、早いと単行本1巻分の約10話くらいで打ち切りとなり、そうなる作品が結構多いので、新連載が始まった作品はここが第一の壁となります。
読み進めていくと、1話目を読めば第一の壁を越えられるか否か、何となくわかるようになってきます。『鬼滅の刃』のそのにおいはというと、かなり危うい感じで、絵が独特で個性的すぎる感はありました。個人的にはそのラフな感じは嫌いではないですが、絵柄の個性はその作品のパワーの源ですが、パワーがあることと誌上で人気を得られるかはまったく別の話であるように感じています。
個性的な絵柄でマンガ史に名を刻む『ジョジョ』シリーズのような伝説的作品はさておき、週刊漫画に連載される作品は、概ね絵がきれいで見やすいと思います。最近の漫画家の作家の完成原稿を目にしたことがありますが、ありえないくらい美しい。1ページ1ページが芸術作品のようでした。それくらいジャンプ連載作品の絵は素晴らしい。読みやすさが極めて高い水準で追求されているということですが、これはちょっとさじ加減を間違えると没個性に陥るということでもあると思います。

スタート時の人気は低迷 しかし「セリフの力が圧倒的」

個性的で、週刊漫画向きではないように思われる絵柄で連載をスタートさせた『鬼滅の刃』でしたが、案の定人気は低迷、週刊少年ジャンプの掲載順は、一説にはアンケートで人気だった順というが、それが本当なら『鬼滅の刃』は連載当初からしばらく、いつ打ち切りになってもおかしくない順位をさまよっていたとのこと。ただ、同作品の初代担当編集者は「セリフの力が圧倒的」と語っています。僕はそれを聞いてもよくわからないのですが、作品に満ち満ちている緊迫感には、気持ちが追いつめられるくらい非凡なものを感じていて、主人公の炭治郎がまっすぐで応援したい性格であったのと、それと作品に対する判官びいきもあって、次第にその独自性に引き寄せられていました。やがて話が目に見えて面白くなり、ついに人気をその不動にしました。一度こうなると、絵柄の個性が強みとなって作品の魅力を倍加させ、『鬼滅の刃』は読者を魅了しながら、更なる人気マンガ街道を突き進んでいることにほくそえんでいました。

他作品と比べても 類を見ない緊張感の理由は?

「話が目に見えて面白くなり」とはどういうことか。
主なきっかけとして主人公の成長とサブキャラと敵キャラの充実、対立構造の明確化などがあって、それらに伴ってバトルの面白さが倍増し始めました。巻数で言うと3~4巻のあたりでしょうか。
人気が安定し始めたのは連載から1年ほどが経過した頃だと思いますし、絵柄も少し丁寧に描かれているように感じてきました。
同作品のバトルの面白さは敵と対峙した際の「圧倒的な絶望感」にあると思います。読者視点だと「主人公サイドに勝ちの目がまったく見えない。
ただ、なぶり殺されるしかない」と思わせる敵と次々に刃をまじえることになります。強大な敵が与える絶望感の描写にたけた少年マンガはいくつかありましたが、『鬼滅の刃』は全編にわたって血なまぐささのようなものが漂っている分だけ、絶望感、緊迫感がより迫って感じられているように思います。
『鬼滅の刃』のバトルのあり方は、バトル系マンガにおいてやや特殊です。週刊少年ジャンプの他作品と比べてみると、『ONE PIECE』は戦いに至るまでに敵と味方のドラマがあって、読者は主人公サイドにひどく感情移入させられる。『NARUTO -ナルト-』はそれぞれが得意とする忍術を駆使してバトルが展開されるので、ある種“能力系バトル”の趣があるが、駆け引きの面白さが際立つ。そして『BLEACH』は何かとスタイリッシュで、繰り出される技の数々が今見返してみても、とにかく問答無用にかっこいいです。
近年のバトルマンガは上記作品群に見られるような“修行パート”、“戦うための大義”、“各登場人物が備える特殊能力”、“駆け引き”、“技のかっこよさ”などを意識して作られているように思います。

バトル中における「心理描写」

これらの要素については、『鬼滅の刃』にも高い水準で取り入れられています(個人的には特に技がかっこいい)が、ほかの作品と特に異なるのは、戦っている最中の敵・味方双方の心理描写が詳しくなされている点。これがものすごい効果を生んでいるように感じます。
正確な再現ではないが、たとえば主人公が敵の猛攻を間一髪の連続でしのぎながら「息が続かないっ…。意識が飛びそうだ…。回復の呼吸を…。何とか回復の呼吸を…!」といったモノローグが、バトルの最中ずっとテンポよく挟まれています。
敵は強大で対峙した際の絶望感は甚だしく、モノローグと合わさると主人公が文字通り必死に、死線ギリギリのところで命をつなぎながらなんとか勝利し、生き残るための活路を見いだそうとする鬼気迫るさまが描き出されています。
予定調和が裏切られるのではないかという別の緊張感もまた格別です。

共感型の主人公 老若男女の支持を得る

『鬼滅の刃』が少年だけでなく老若男女に大ウケした理由は、バトルシーンだけでは説明がつかず。これには登場人物の造形とドラマパートの面白さ・重厚さに理由があるのではないかと思います。
まず、主人公・炭治郎の性格の類型がわりと現実的に、身近に感じられる。悟空やルフィは正義感が強く仲間思いだが、カリスマ性があって、読者にとっては憧れと崇拝の対象ですが、炭治郎も正義感が強く仲間思いのところは同じですが、生きざまがひたすら懸命で、読者の応援と共感の対象となっています。
前者が“少年ウケ特化”とするなら、後者は“性別不問・全年齢ウケ”ということができると思います。どこかの層向けに特化しているわけではないが、幅広い層の読者を魅了しうる趣きがあります。
また、共感型の主人公である炭治郎だが、凡人には到底まねできぬレベルの優しさ・誠実さを備えていて、この唯一無二さは少年マンガの主人公にもふさわしく、またこの性格的な長所は、老若男女に支持されうる種類のものでもあります。

敵側にもドラマがある 泣かせる演出

ドラマパートについて。『鬼滅の刃』の大筋は「人間の生活を脅かす鬼たちをやっつけよう」というもので、主人公サイドはかたき討ちと人々のために刃を振るう。ここまではまあよくあるタイプの話ですが、各所に味付けのうまさが光ります。特徴的なのは、敵方にあたる鬼たちにも重厚なドラマが用意されていること。鬼にも傷つけられた過去があり、その半生を振り返れば、今こうして人間を害するようになったのも仕方ないのではないかと感じられる悲しさがあります。
これらのドラマにはかなり心にくるものがあり、鬼によっては無事打ち倒された際に読者が涙させられることもあります。そして炭治郎は「お前もつらかったな、悲しかったな」と心を寄せています。もう泣くなという方が無理です。
最近のマンガ(少年マンガを含む)の傾向として、勧善懲悪ではなく、「悪には悪なりの立場・言い分がある」という点が描写されるようになってきてはいますが、『鬼滅の刃』はこの描写の仕方が非常に秀逸。『ONE PIECE』が国民的支持を得た理由のひとつに「ドラマパートの面白さ」が挙げられることは言うまでもないことですが、『鬼滅の刃』にはその点共通するものがあります。

以上、筆力が及ばぬところ多々ある自覚があるので恐縮ではありますが、原作『鬼滅の刃』の面白さについてざっと列記しました。

おわりに

人気最高潮で本編の連載を終了した作品ではあるが、映画の大ヒットにより、まだまだ新規のファンは増えそうです。作者の続編か、またはまったく別の新連載をそれとなく楽しみにしつつ、次の「鬼滅の刃」のような最高の作品を待ちたいと思います。